第235回 『水淹下邳』



呂布「雨の勢いがどんどん増してきている」

   「この分ならば遠からず曹操軍は必ず全面撤退する。良機は逃してはならん」

張遼「然様です。主公自ら兵を率いて、我ら二人が補佐するのですから、これで蕭関が堕ちぬ道理がありましょうか」

「報告! 陳宮大人が戻られました!」



高順「陳宮きさま、我らはお前を助太刀に来たと言うのに、何故戻ってきた!」

陳宮「高順、私はお前に泗水を保守しろと言わなかったか? お前こそなぜ守りを離れた!」

呂布「二人とも少し落ち着け」

陳宮「は、落ち着けですと? この天気を見て、どうして落ち着いていられますか!」

   「主公、我等の財源すべては下邳にあるのですよ、離れるべきではなかった!」

「報告!」



  「主公、後方から突如水が! 道は泥濘と化し輜重を通せません!」

張遼「ばか者! 雨季だからだろう! それくらいで慌てるな!」

呂布「違う。雨季ではない」

陳宮「兵を泗水に布くにあたって、あの郭嘉が奇を用いぬはずがない。この陳宮、不肖ながらいまようやく目が覚めました。水位がにわかに増えたのは間違いなくそのせいです!」

   「主公、我らは総勢を率い出動していおります、溢れた大量の水が一旦下邳に到れば、物資の供給はすぐにも切断されてしまいます! 前方には曹軍、後方には水の難、内には食糧不足、軍はあっという間に総崩れですぞ!」



呂布「嵌められた! 号令! 水位はまだ高くなっていない、急ぎ全軍下邳に戻るぞ!」

「付近の部隊に知らせろ! 全軍残らず速やかに城へ戻れと!」

  「急いで早朝に出発した三部隊に知らせにいけ!」

陳宮「主公、袁術は既に兵を発しております。私は彼らに会いに行き、対策を講じましょう!」

呂布「よし、では疾く行くがよい!」



   「水位がまた高くなったぞ! 早く城へ入れ!」

魏続「おかしいな、今年の雨の量はどうもいつもより多いような・・・」



「何の音だ?」

「多分潮騒だろう」



「て、鉄砲水だ!」

「逃げろー!」

「魏大人、間に合いません、城内へお早く!」

魏続(水と共に木の柱が? もしやあれは堤か?)



   「水が来る! 城門を閉じろ!」

   「陳登、お前は太守だろう! 何故この辺りの異変をしっかり調べておかなかった!」

陳登「魏続、確かにあれは川の堤だ。何もおかしい所などないだろう」

魏続「き・・・・・・貴様、何を言って!?」

陳登「そういえばあの堤は曹操が造ったものだったかなぁ」

   「随分遅かったな」



魏続「おいやめろ、お前たち一体何をしている!」

   「いい度胸だ、俺を呂布の妹婿と知っての狼藉か! 早く離せ!」

   「あんたの度胸も十分座っているよ」



司馬懿「俺の兄貴でさえ騙したんだからな」

魏続(し・・・司馬懿!)



司馬懿「まさか奴の妹婿だったとはな。それならより好都合」

魏続「な・・・何をする気だ!?」

司馬懿「さて。聞きたいか?」



「伝令、袁術の軍はもはや目前です!」

「軍師、彼らは本来なら南から徐州に踏み込んでいるべきだったはず。何故此処だと?」

「止まれ! 陣を布け!」

?「そこもとは陳宮か!?」



陳宮「まさしく! お聞かせ願いたい、閣下の軍は何故此処に!?」

?「ここが帰路だからだ、分かったか!?」

陳宮「袁胤大人、何故撤退を!?」

袁胤「陳宮、貴様らは敗北しそうなのだろう、なにゆえ我らが貴様らの殿など務めねばならん!?」

陳宮(な・・・何? どうして知っている?)

   「陳宮、生憎、小弟は仲家帝と懇意にしておりましてね。どうしてどうして、手をこまねいて見ていられましょうや?」

荀彧「それゆえ許都に戻った後、もう一度寿春に向かったのですよ。袁家があまりにお気の毒ですから」
「陳兄が、もし私が嘘を言っていると思われるのであれば、共に寿春に行き、その目で直接確認していただいても差し支えありませんよ」



袁胤「陳宮、我らはすでに曹操と不可侵の盟約を結んだ! 悪いがこれからは呂布に手を貸すことはできん!」

陳宮(若造めが、とっくにここまで計算して・・・・・・)

荀彧「陳兄、呂布が中に伏せる獣である以上、遠からず必ず滅びます」(?)

   「ただ座して斃れるを待つをよしとするか、それとも保身を考えるのであれば、早く呂布から離れられることです」
   「閣下の抜きん出た才は、国のために用いるべきであって、決して悪行に加担させるべきものではないはずだ」



   「まぁ、どうせ地府に到れば皆同じ。責め苦を受けるのでしょうがね」

陳宮「は」

   「はは・・・ははは、」

   「馬鹿馬鹿しい、馬鹿馬鹿しい!」



   「勝負は未だ決しておらん、勝った気になるのはまだ早いぞ!」



   「号令、下邳に戻る!」

   「袁胤、言っておくが、曹操は信用ならんぞ!」

   「遠からず、お前たちはきっと後悔する。これはこの陳宮心からの忠告だ!」

袁胤「荀彧、こいつを仕留めるぞ!」

荀彧「いいえ、行かせておやりなさい」



     「私は彼が心を変えるのを信じて待ちます」







だから、もう一個の川は?
今回の私的ベスト台詞

→荀彧「どうせ地獄に落ちれば皆いっしょ」
(とは言ってない)

07.11.02