第237回 『虎父犬女』



時として、天は人を翻弄する。



今年の雨季はとっく過ぎ去っているはずであるのに、雨脚は未だ途絶えることはない。

私は知っている。人々が心のうちで何を思っているか。

ただ、皆あえてそれを口に出さないだけで。

「だめだ、城壁はもう限界だ!」

「急げ、早く補修しろ!」



皆知っている。
一度突き抜けてしまえば、もう終わりなのだと。



こうして、
また一月が過ぎていく。



「ママ」

「ママ、私もう行かなくちゃ」

小孟「おちびちゃん、何度言ったら分かるの」



   「私は君の母君じゃない」

呂布の娘(以下呂姫)「だって皆がそう言うんだもの」(?)



小孟「もう一度言うけど、君の母君は死んだんだ。そして私は・・・・・・」

呂布「知ってるよ。あなたは宦官なんでしょ。陳宮が教えてくれたわ」

   「でも、父様があなたのこと好きなのも知ってる。口には出さないけどね」
   「知ってる? ここは昔ママが使っていた部屋なのよ」

小孟「バカなことを。おちびちゃん暇なのならこんなことしてないで、できるだけお父さんの側にいた方がいいんじゃないの?」

   「まさか知らないわけじゃないだろう? この雨が上がったら」
   「君は袁術の出兵の条件と引き換えに、寿春に嫁ぎに行かなければならないんだから。後から別れを惜しんでも遅いよ」



   「いきなり皇太子妃になれるのよ。喜びこそすれ、嘆く必要なんてどこにあるの」(?)
   「あなたは女じゃないから分からないでしょうけど」

小孟「何が?」

   「女にとって、人生で最も幸せなのは、こういう結婚なんでしょう?」

小孟「おちびちゃん、それは誰に教わった?」

   「父からよ」



   「私たち呂家はね、やること為すこと、人よりも直接的なの」

   「上に這い上がるためなら、何だってするわ」

小孟「なるほどね。道理で義父だった丁原や董卓を手にかけておきながら、少しの後悔も伺えないわけだ」

呂布「小孟、あなたも天下人と同じね。いつも奇麗事ばかりで、現実的じゃない」



   「世の中みんな上に這い上がろうとしているのよ。大量殺人者の凶暴さに比べたら、義理の親子となって権力を奪うなんて、まだ平和的な方じゃない?」

小孟「けれど、彼らは形式の上だけだとしても、一応あなたの『祖父』だ」

   「私の祖父の姓は今も昔も『呂』だけよ。『丁』でも『董』でもないわ」



   「父様は言っていたわ。千万の命を引き換えにして英名を得ることが、一番薄汚いやり方だって」
   「これこそが父呂布とその他の覇主との違う点」

小孟「呂氏の名声は、すでに底を尽きた」

呂布「覇主になるのに際限なんてないわ」

  「権力さえあれば、劉氏だって仁君に代わるんじゃないの?」



小孟「ほらご覧、天罰が下った」

   「おちびちゃんは呂家の娘だろう。何を怖がる?」

呂布「は・・・は、怖いんじゃないわ。憎いの・・・」

   「父様のお手伝いができないこの身が、ただ恨めしくて悔しくて・・・」



   「もっと悔しいのは、自分が男でないこと!」

   「女じゃ、父様と一緒に戦場に立って戦えないもの!」

   「でも一番・・・・・・一番憎いのはね・・・・・・」

小孟「言ってごらん」



呂布「一番憎いのは、虎の父から生まれたのが犬の娘であったことよ!」

小孟「おちびちゃん」
   「何を恨むの?」

   「人生は、それだけがすべてじゃないんだ」(?)

呂布「違う・・・違うもの・・・これこそが呂家の進むべき道だもの!」



   「これが呂家の道なのよ!」

この日、私はずっと彼女を抱きしめていた。

雷が閃き轟いては、心を揺さぶり続ける。
まるで彼女の身体から映し出された覇主の、矛盾した感情のように。



呂布、お前も結局人間なのだ!

呂布(この息の詰まるような不安な感覚は、着実ににじり寄る崩壊の予感か)(?)



   (だが、笑うのは)

   (この俺だ!)



   (なぜなら、俺はお前たちよりもずっと長く生きている。)

   (俺はまだ俺のしたいことができる。)

   (しかしお前たちは、ただの一塊の使い物にならぬ石碑の上に生きているだけにすぎん。)



   (そうだ、今の俺は情けない。)
   (己の娘を守りきる力さえない。)

   (だが、俺は言わない。言うわけにはいかない!)

   (俺に恐怖などない、ただ今は恨めしくてしようがないのだ!)



   (天よ、これが人生だ!)
   (俺の選んだ人生だ!)

   (もしこれが天に逆らう行為であれば、)
   (無言で対す俺を許せ!)

   (何故ならば・・・・・・)

   (俺は呂布、)
   (人中の呂布、)



   (時まさに壮年にして、)

   (初めて全身全霊をかけて己の道を守りたいと思ったのだから!)







ごめんなさい、実は最後の方かなり曲解&適当訳・・・いや、よく分からなくて。ごめ・・・
それにしても、あんなオヤジからこんなカワイイ娘が生まれるとは・・・てっきり親父似のゴツイ娘だと(失礼)。ミステリー。東洋の不思議です。でも呂布パパ、かなりの子煩悩というなかなか可愛い面が発覚。

それにしてもおませさんなことで。
そして小孟さんのセリフ、うっかり女言葉にしてしまいそうになるのはお約束。
呂布が「父様」なのに小孟が「ママ」なのもご愛嬌。

今回の私的ベスト台詞

呂姫父様はあなたのこと好きなのよ。口には出さないけどね

ま、MJDKー!!!
ちょ・・・某先生! 公認デスカっ!
あれですか、「父さんはね、あんな人だから照れくさくって口では言わないけど、母さんのこと本当に愛してくれているのよ」みたいな。
ツンデレ、オクテ、ムッツリ・・・と様々な単語が走馬灯のように駆け巡りました。つーか娘にバレバレやんけ、パパ。
07.11.23