第239回 『籠中獣困』



天地には(きまり)があり、万物は不変にしてその中にある。

結局最後は、お前はお前以外の何者にもなれない。

「何があった!」

「お前たち、まだ鎧をつけていないのか!?」

「呂布だ!」
  「呂布が単騎突っ込んできたぞ!」

「急いで戦闘準備だ!」



「ははは、総領に連絡しろ!」
  「呂布がついに痺れを切らして動いた!」

夜の帳が低く垂れている。しかし人々は心中に一片の曙光を見出した。

そうだ、俺が死ねば、戦いは収束する。

「左だ、左だ!」

俺もこの光明を待ち続けている。



しかし残念なことに、目前にあるのは厚く積み重なる雲の層だけ。

曹操よ、俺には分かるぞ。
この厚い幕が、いかにお前が俺に対して恨みを多く抱いているかを物語っている。

俺もそうだ。

地上には、士卒が降り注ぐ雨の数よりも多く、
一つ一つ容赦なく俺の身の上に襲い掛かる。



天上では、曙光という名の俺の一条の希望の光は、すでに雨水を乾かし去る力を失っている。



ふと気づいた。

こんな夜更けに、夜明けの光などあるものか?

呂布よ、

お前は本当に大バカ者だ!



俺の野心が、己自身を窮地に追い込んだ。

機を見誤って、道を違えた。

当然、俺はこの道の末に待つものを力の限り否定する。



「呂布、覚悟!」

今更ながら悔やまれる。天を黒雲が覆い、雷鳴が鳴り響くのは、一種の警告ではなかったのか。

呂姫「父様、退かないで!」

雲の下でも、時に鳥が鳴くことがある。



猛獣が吼えることも!



不意に、この天経地義に気がついた。

この循環の中からは、抜け出すことはできない。

「呂布は右道から行くつもりだぞ!」

「追いつけん、なんて脚の速さだ!」

呂姫「父様、右!」

唐突に、



俺は人間から、奔走する一匹の野獣に変わる。

張郃「呂布、そっちへは行かせんぞ」

呂布「来い」

当然、俺は自分が人でないということなども、力の限り否定する。



張郃「く!」

わき目も振らず、ひたすら奔走し、また奔走する。

張郃「そちらへ行ったぞ!」

驚いた野獣は、ただ罠に向かって走るのみ。



罠がいっそう小さくなるのにもかかわらず、

猟師どもは得意満面の様!



獲物は慌てて命運を転じようとする。

張郃「後方、陣を展開しろ!」

ただ咆哮を上げて、気勢を得るのみ。



それもすぐに覆い隠される。

ひとえに彼ら猟師が非凡であるゆえに!

右!



こいつ!

呂布「おお」



進めん!

前!



罠の口はすでに開かれていた。



最もか弱い獲物が、皮破れて肉裂け、鮮血を四方へ飛び散らす。

振り返れば、猟人はすでに料理人へと衣を変えていた。







あーーーーーー!!! 小東西ィィー・・・!! 大泣き。

今回は殆ど呂布の語りだけでした。この人戦っている時のモノローグ多すぎ。しかもポエマー。おかげで訳がゴテゴテ。それは私がヘタクソなせいですが。
ちなみに来週はお休みですって。まー珍しく真面目に仕事してましたからねー。ここまで連続で持ったのもかなり奇跡的。

07.12.01