「おっと」

 男は足元に正面から突き出された敵槍を、両足飛びでひょいと躱した。
 それに合わせて粗雑なつくりの麻服の裾がひらりと翻る。
 標的を逃した穂先はそのまま地面へと鈍い音を立てて刺さり、しかしすかさず獲物を仕留めるべく再び切っ先を振り上げた。
 荒野に鬨が響き渡る。
 ここは戦場で、戦っているのは五雄のうち尭と慶。
 ともに頭領は、張斯(ちょうし)戯孟(ぎもう)である。


 遡ることおよそ5百年ほど前、高祖(こう そ)鄭奇(てい き)に始まり、長い間東の広大な土地と人民を支配してきた韓の王朝は、時の流れとともに内から少しずつ腐り崩壊の序曲を奏で始めていた。
 皇帝の権威はすでに地底まで失墜し、宦官とよばれる後宮に仕える去勢された内侍が宮中を専横する。彼等はその地位を利用して権力を握り、君主たる若い皇帝を恣に操った。
 漂う改朝換代の風潮。そして、時が乱れ揺れ動くときこそ現れる英雄たち。
 群雄割拠。次々と頭角を現す英傑はまさに煌星の如く様々に栄枯盛衰を極める。勝利に台頭する者がいれば、敗北して消え去る者もまたいた。
 駆逐淘汰されていく中で次第に浮き彫りにされたのは5つの領地に封じられた列侯。

 (きょう)の地を領するのは孫胥(そんしょ)(あざな)子雲(しうん)
 尭は張斯、字を韓臣(かんしん)
 ()皇甫圭(こうほけい)、字を伯安(はくあん)
 ()呂伯(りょはく)、字を蒿巌(こうがん)
 そして慶は戯孟、字を志明(しめい)

 ある者は朝廷の大官、ある者は州牧(行政・軍事兼権の州の長官)、またある者は県令(県の長官)、そしてある者は歯牙なき竹細工売りであったのが、やがてそれぞれの志、あるいは野心を胸に将兵を率い干戈を交える。
 五つの勢力に分かれた彼らは、そこから更に天下の覇権と和平を追い求め、更なる戦乱を繰り広げた。
 その様を後世の歴史編纂家たちはこう呼んだ。
 五つの雄が競い合いながら大陸を五分した時代。

 ―――すなわち、五国時代と ―――
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