四.


 奇怪なことはまだまだ続いた。
 先生が授業中に突然倒れたのだ。
 倒れたのは数学の小山先生だった。新任のまだ若い男の先生で、僕達のクラス担任でもある。
 学校が終わってから委員長が見舞いに行くらしいと言うことを情報通の少年が言っていた。
 ほかの先生はきっとこの連日の暑さにやられたんだろうと言っていたが、果たしてそうだろうか?
 小山先生が倒れたときに授業をしていたのは3年B組だった。




「委員長、昨日コヤマーの見舞いに行ったんだって?」

 翌日、早速おなじみの仲間のひとりが様子を訊いている。
 僕達は小山先生の事を普段呼び捨てにして呼んでいるのだ――もちろん本人のいないところでだが。

「ああ、まあな……」

 そう言う委員長はいつになく歯切れが悪かった。心なし顔色も昏い。

「どうだった?」

 また別の仲間が訊く。
 委員長は少し言うのを躊躇し周りを見回した後、声を低くして語った。

「実は相当やばいらしいんだ」

 一瞬みんな息を飲んだ。
 正直たいしたことはないと思っていたのだ。
 まさかそこまで危険な状態だったとは――

「意識不明でな……。なにせ原因がわからないから対処のしようがないんだそうだ。このまま意識が戻らなければおそらく――…」
「……」

 重い沈黙がおとずれる。
 誰もが何か言おうと口を開きかけ、止める。
 どんな言葉もへたな励ましにしかならない。
 特に委員長は現状をその目で見てきている。
 しばらくしてまた委員長がためらいがちに話し出した。

「俺、さ。不思議なものを見たんだ」

 みんな静かに耳を傾けている。

「見たんだよ。あの転校生……吉田がさ、小山の病室から出てくるとこ」
「別にあんま不思議でもないだろ。自分のクラスの担任を見舞うぐらい」

 情報通が言う。

「違うんだよ。俺は小山の病室には入れなかった。面会謝絶だったからだ。でも吉田は普通に出てきてた。近くに医者とか家族がいたのに誰一人それを気にかけなかったんだ」
「許可を得ていた、とかじゃなく?」

 別の一人がたずねた。

「転入したてなんだぞ? すごく懇意にしていたってならまだしも、そんな奴に普通許可を与えるか? それに、そんな感じじゃなかった」
「じゃあ……どういうことなんだ?」

 情報通の少年がおそるおそる訊いてみた。

「それがわかんね―から不思議なんじゃないか。俺はその時廊下の角の影から見ていたから、向こうは俺に気づかなかったみたいだが。――あと、もうひとつあるんだ」
「ま、まだあるのか?」

 人参嫌いから情けない声が漏れる。彼はホラーも苦手なのかもしれない。

「吉田が出て行ったあと、入れ違いになるように今度はB組の高村が入っていってんだ」

 それ以上誰も何も言わなかった
 僕は最後までずっと黙っていた。

(まただ)

 『原因不明』と『二人の転校生』。
 奇妙な符合の一致。
 果たしてこれは偶然なのか。




 怪異はいたるところで発生している。
 まず調理室で爆発が起こった。
 幸い小規模な爆発だったため、近くにいた数人が怪我をするという程度で済んだ。
 学校側はこれをガス栓の老朽化によるガス爆発として処理したが、実際現場近くにいた人たちの話によると爆発直前までガスの臭いはしておらず、ガスの元栓はちゃんと閉まっているのを確認していたという。
 次に謎の病気が流行する。
 食中毒に似た症状で、一時集団食中毒かと疑われたが、病気にかかっている生徒たちのほとんどはそれぞれ違ったのものを食べていて原因と思われる共通点がないため、新種の風邪ということになった。
 その他にも、以前より怪我をする人が明らかに増えた。
 それは大なり小なり、異常なことではあった。
 僕らの知らないところで得体の知れない何かが起こっているようだった。
07.09.27

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